日本からブラジルに移住され、ブラジルの社会・環境問題、移民の記録などを録り続けていらっしゃる映像作家の岡村淳氏が、「ブラジルと日本」について様々な視点からコラムを書いてくださいました。

ブラジルのお盆
 ブラジルに「お盆」があるって、知っていましたか? さてそれは、いつでしょう?
 日本の旧盆は8月。ブラジルは国土の大半が南半球だから、その反対で2月がお盆?
 う〜ん。残念でした。

 答えは11月2日です。

 この日はキリスト教で「死者の日」と呼ばれ、ブラジルでは「フィナードの日」といいます。
 カトリックとプロテスタントを合わせて国民の9割がキリスト教のブラジルでは、この日に家族揃ってお墓まいりをする習慣があります。
 キリスト教とは縁遠かった多くの日本人移民達は、祖国の習慣にちなんでフィナードを「お盆」と称して、ブラジル人にならってお墓参りをするようになりました。現在では、フィナードの日の夜に日本式の盆踊りをしたり、燈籠流しをする日本人移住地もあるほどです。

 今年の「ブラジルのお盆」の日、私はアマゾンを訪ねました。近年、ボイ・ブンバの祭りで有名になったアマゾン川中流のパリンチンスの町に向かいます。無縁仏となりつつある、第2次世界大戦前にブラジルに渡った日本人移民のお墓参りと取材をするのが目的でした。
 普段のブラジルの墓地はひっそりと静まりかえり、日本と違って土葬が一般的なので真新しい土まんじゅうもボコボコとあって、日本の墓地よりホラーな印象があります。
 ところが、ブラジルのお盆を体験して、私のイメージは激変してしまいました。

 ブラジルの墓地は、あったかくて楽しい!

 フィナードの数日前から、墓地は当日に備えて掃除をしたり改装する人たちで活気を帯び始めます。前日になると花や飾り物、飲み物などの出店が墓地の入り口周辺に並びます。
 当日、人出が激しくなるのは夕方から。田舎町のどこに潜んでいたのかと疑うほどの人の波が、墓地に押し寄せます。人々はそれぞれの家族のお墓をロウソクと花で飾り立て、お墓を囲んで祈りと語らいの時を過ごします。
 アマゾンの夕暮れ時、墓地全体が無数のロウソクの明かりで浮かび上がりました。墓地の中央にある巨大な十字架の周囲には、故郷から離れている人やお墓のない人たちが群がってロウソクを立てます。あたりは明るいどころか、一面のロウソクの熱で空気がサウナ風呂のように熱くなっています。背後には警官が消火器を持って控えていて、溶けて地面を覆うロウが燃え上がるのを鎮火します。

 まだ死別から日が浅いのか、泣きじゃくっていたり、一心に祈り続ける人も時折見受けられます。しかし、なんといっても根はラテンなブラジル人。多くの人々はお祭り気分で、お墓参りをしながらも笑い声が絶えません。そして若い人の多いこと!
 「アロー。ジョセ? あたし、マリアよ。どこからケータイかけてると思う? お墓の中よ!」
 地元の日系人がロウソクを立ててくれた、日本人の無縁墓の前を若い娘がこんな会話をしながら通り過ぎました。
 墓地は夜半まで人出で賑わい続けます。
 霊魂となってアマゾンの天空から、闇に浮かぶ無数のロウソクの明かりを眺めたら、どんなに素敵なことでしょう。

 アマゾンも盆が早よ来こりゃムイト・ボン

 ※一言ブラジル語講座:ムイト・ボン=英語のベリー・グッド。「とても良い」の意でした。
◇◆◇筆者プロフィール◇◆◇

岡村淳(おかむら・じゅん)

1958年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部日本史学専攻卒業。1982年、日本映像記録センター(牛山純一代表)入社。処女作は日本テレビ『すばらしい世界旅行』の「ナメクジの空中サーカス 廃屋に潜む大群」。以降、ゲテモノおよび中南米の取材を主に担当して、大アマゾンの裸族、ピラニア、ポロロッカ等々を扱う。
1987年、フリーとなり、ブラジルに移民。
フリーの番組ディレクターを経て、1991年、小型ビデオカメラを用いたひとり取材に開眼。ブラジルの社会・環境問題、移民の記録にこだわり、作品をNHK、東京MXテレビ、朝日ニュースターなどの日本のTVメディアで発表。近年は自主制作によるドキュメンタリー作りを続けている。
自主制作の代表作に「郷愁は夢のなかで」(1998年)、「ブラジルの土に生きて」(2000年)、「赤い大地の仲間たち フマニタス25年の歩み」(2002年)、5時間15分の長編「アマゾンの読経」(2004年)など。
作品の上映には制作責任者である岡村の立会いを原則として「ライブ上映会」と呼ばれ、「ひとりでもご覧になりたい方がいればおうかがいする」という方針で、これまで日本、ブラジル、台湾、アメリカ、チリ、アルゼンチン、オランダでライブ上映会を実施。

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