住めばブラジル
ギアナ高地の伝言

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「ツナミの影響じゃないかな。」
ベネズエラ人のパイロットが言います。

 今年の1月、南米はベネズエラ奥地のギアナ高地。
本来は乾季が始まり、訪問のベスト・シーズンなのですが、連日の雨。異常気象です。スマトラ沖代地震からまだ1ヶ月足らず、地球規模の大天災が思わぬ気候変動をもたらしているのかもしれません。

 私は在ブラジルの植物学者・橋本梧郎先生のお供かつビデオ記録の作成のため、少年時代からあこがれていた「失われた世界」ギアナ高地にやってくることがかないました。
 私が人生の師と仰ぐ橋本先生は、気力は若者以上とはいえ、92歳。いわば旅のプロの私にとってもハードな行程です。道中、ずっと先生と同室だった私は「万が一」を心配し続けました。

 なんといってもギアナ高地の目玉は、テプイと呼ばれるテーブルマウンテン。断崖絶壁で下界と隔絶された地上最古の大地に取り残され、独自の進化を遂げた植物の観察です。

朝日に浮かぶギアナ高地のテプイ。
右がロライマ山、左がクケナンテプイ。
 我々の目指すテプイ・ロライマ山はトレッキングコースだと約1週間。飛行機の乗り換えに車椅子を使うこともある橋本先生には無理です。そのため、奮発してヘリコプターをチャーターしてロライマ山に挑むことにしたのですが、悪天候の毎日。 現地出発の前日も雨でした。

「もういいよ。下のグラン・サバナ(ギアナ高地の平原地帯)をひと通り見たし。津波で死んだ人を思えば・・・」

と橋本先生の泣かせるお言葉。
 しかし、誰よりも未知の植物に恋焦がれている先生に、ここまでまた来ていただくことはおそらく不可能でしょう。

現地ガイドのロベルトさんは言います。

「このあたり一帯は水晶に覆われている。水晶はエネルギーを増幅させる力があるから、プラス思考を持って、インディオの神に誠意を尽くして天候回復を祈ること!」

 私は私なりに、何としても橋本先生をテプイにお連れする方法をいくつか考えていました。問題は、天候、それにカネと時間。

 そして昼前の飛行機で首都カラカスに向かうという最終日!

 奇跡が起こりました。

 これまで片鱗もうかがえなかったロライマ山塊が、宿の前方に夜明けと共にくっきりと現れたのです。
午前6時30分、宿の前のヘリポートにヘリが到着。橋本先生は92歳を目前にしてヘリ初体験。一路、ロライマ山に向かいます。
 しかし、ロライマ山頂は一面の雲・・・

ついに念願のテプイに
舞い降りた橋本梧郎先生。
 ネバー・ギブアップ!
 ロライマ山のすぐ西にあるクケナンテプイは視界良好。
臨機応変にクケナンテプイを目指します。ヘリから見るテプイの上の光景には息を呑みました。これまでの自分の価値観を覆す世界です。岩と水と、わずかな水の織り成す世界。これはもう、映像を見ていただくしかありません。

そして着陸。

 
テプイの地表は黒い藻類に覆われ、
実に滑りやすい。慎重に歩む。
  クケナンテプイの三本岩。
古代遺跡をほうふつさせるが、自然の造形。

 ・・・こうして原稿を書いていると、あの不思議な時空がよみがえってきます。あの世界は、一体、なんだったのだろう? ただ、あの世界の存在を知ることで、自分の心が豊かになったことだけは確かです。日常の諸々にもまれながらも、あの世界を思い出すことで、気持ちがやすらかになる。

 クケナンとは「物を転がす水の流れ」の意味だそうです。もうひとつの名前は「インディオたちの、聖なる自死の場」。かつてインディオたちが聖なる死を決意した時に向かった山。92歳を迎えた橋本先生、そしてようやくその半分の歳の私にとって、クケナンは、かつての自分から新たに生まれ変わる再生の地に他なりませんでした。


◇◆◇プロフィール◇◆◇

橋本梧郎(はしもと ごろう)氏 植物学者

植物学者。
静岡県出身。「世界で一番、植物の多い国へ行ってみたい」という希望から21歳でブラジルに移民。以降、植物標本約1万種、15万個体もの植物を採取して研究を重ね、橋本記念標本館をサンパウロ市イタケーラ区に開館。新種も30種を超える種を発見。著書にブラジル産薬用植物事典など。2008年逝去。

◇◆◇筆者プロフィール◇◆◇

岡村淳(おかむら・じゅん)

1958年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部日本史学専攻卒業。1982年、日本映像記録センター(牛山純一代表)入社。処女作は日本テレビ『すばらしい世界旅行』の「ナメクジの空中サーカス 廃屋に潜む大群」。以降、ゲテモノおよび中南米の取材を主に担当して、大アマゾンの裸族、ピラニア、ポロロッカ等々を扱う。
1987年、フリーとなり、ブラジルに移民。
フリーの番組ディレクターを経て、1991年、小型ビデオカメラを用いたひとり取材に開眼。ブラジルの社会・環境問題、移民の記録にこだわり、作品をNHK、東京MXテレビ、朝日ニュースターなどの日本のTVメディアで発表。近年は自主制作によるドキュメンタリー作りを続けている。
自主制作の代表作に「郷愁は夢のなかで」(1998年)、「ブラジルの土に生きて」(2000年)、「赤い大地の仲間たち フマニタス25年の歩み」(2002年)、5時間15分の長編「アマゾンの読経」(2004年)など。
作品の上映には制作責任者である岡村の立会いを原則として「ライブ上映会」と呼ばれ、「ひとりでもご覧になりたい方がいればおうかがいする」という方針で、これまで日本、ブラジル、台湾、アメリカ、チリ、アルゼンチン、オランダでライブ上映会を実施。

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